20年間この業界にいて、色々なことを学んできました。そしてずっと疑問であった答えが少しずつではありますが見えてきたように思えます。
2つあった疑問の1つ目、「カイロプラクティックでは体(特に背骨や骨盤)のゆがみや動きの悪い関節を矯正して治療するが、そもそもなぜ体はゆがむのか、なぜ背骨や骨盤の関節の動きが悪くなるのか」、その理由は大きく分けて3つあります(事故などの急な外力によるものは除きます)。
第1に、姿勢や体の使い方によるものです。これは左右のゆがみよりは前後のゆがみに影響することが多いです。日常生活での姿勢と運動でコントロールすることが可能な場合があります。一般的によく言われていることではありますが、ただこれだけで全てを説明するのは無理があります。
第2に、人間の脊柱(背骨)は年を取ると最終的にはほぼ同じ方向にゆがんでいく要素を持っているからです。人間の体は潜在的な「らせん構造」を持っています。心臓も血管も、そして人間の体を構成しているDNAもらせん構造です。実は背骨も潜在的ならせん構造に出来ています。なので年を取り体や背骨が委縮をしてくるとそのらせん構造が顕著に表れてきます。なので、高齢の方の加齢による背骨のゆがみは最終的に皆同じような形にゆがんできます。実際に人体標本を見るとほぼ同じ方向に背骨が曲がっていることが確認できます。
このことは、高齢の方は必ずしも背骨のゆがみが全く無いのが正常とは言い切れないことを表しています。許容範囲内に治め、症状を出さなければ健康体と言えます。ただこの説明でも、高齢者ではない場合の説明ができません。
上記の第1と第2の理由は、私自身学生の時から学んで分かっていたことでしたが、それだけでは説明がつかないことが多く、3つ目に気付いた時ようやく納得いたしました。
カイロプラクティックなどの手技療法・自然療法ではしばしば脊柱(背骨)を中心に考えがちです。確かに人間をコントロールしているのは中枢神経系(脳と脊髄)なので、それらを格納している背骨は一番重要なのは間違いありません。ですが、「なぜ体がゆがむのか」を考えた時は、背骨を中心に考えることは正しいとは言えません。背骨を中心に考えてしまうから「なぜゆがむか」が分からなくなるのです。
第3の理由は、そもそも人間の体の重心線(重力が正しくかかる線)は背骨には無く、胸骨(胸の前の骨)のやや後ろ側を通ります。つまり、人間は背骨に重心がきて重力に対し支えているわけではないのです(背骨に重心がきてしまい背骨で支えてしまうと、腰痛や椎間板ヘルニアになります)。なので、ゆがむ原因は背骨そのものの問題ではなく他の影響で結果的に背骨のゆがみを作ってしまうのです。
その原因とは重心線が通る胸郭、つまり肋骨側の影響によります。胸郭(肋骨)に不均等な圧力がかかることにより、力を逃がすために結果として背骨がゆがんでいくのです。では肋骨をゆがめる原因とは何か?それは、内臓などの臓器からの不必要な圧力です。胸郭(肋骨)の中には多くの内臓が収まっていますが、そこには余計な隙間はありません。内臓をコントロールしている自律神経の乱れやその他の要因により、臓器に血液やリンパが集まり内圧が上昇すると肋骨を押し上げ、結果として背骨にゆがみを作ります。また、内臓の圧力は肋骨だけではなく、下にかかれば骨盤をゆがめます。骨盤全体の傾き(ゆがみ)だけではなく、左右の不均衡も発生させます。直接の下方への圧力だけではなく、胸郭(肋骨)内の不均衡による重心バランスの崩れから骨盤のゆがみを作る場合もあります。
その胸郭(肋骨)や背骨、骨盤がゆがんだ状態のところに重力がかかっていくと本来の正しい所に力がかからず、かかってはいけないところに力が多くかかります。その結果、ゆがみが大きくなり筋肉や関節に負担がかかり痛みや障害、変形などが起きてくるのです。
つまり、人間のゆがみを作るものは、「自律神経」と「重力」の2つなのです。
~12回連載・⑩に続く~